ニコニコ動画はSynvieプロジェクトが原型

三連休になったので、語り部がいなくなったWebの歴史の話をしても良いですか?

2006年12月に、YouTubeの動画にコメントが付けられるサービス「ニコニコ動画」が登場して大ヒットしますが、ニコニコ動画のサービスの原型は、2005年の名古屋大学長尾研究室の「Synvieプロジェクト」に求めることが出来ます。

ニコニコ動画でも以前は↓のように謝辞に「コンセプトの元」「インスパイア」という表現を用いて掲載されたのですが、今となっては知っている人の方が少なくなりました。

Synvieプロジェクトは、 IPA未踏ソフトウェア創造事業に採択された 「マルチメディアコンテンツの配信とそのコミュニティ支援システムの開発」のプロジェクトネームです。このプロジェクトは以下のようなコンセプトを持つものでした。

Synvieとは、まったく新しいブログ/SNS時代のマルチメディアコンテンツ配信・コミュニケーションシステムです。従来型のコンテンツ配信システムは、 ただ単にコンテンツを配信するだけで、インターネットのインタラクティブ性やネットワーク性を考慮していません。 我々はマルチメディアコンテンツにブログの仕組みを取り入れることによって、既存のブログと同様に、映像コンテンツを話題とした コミュニティの生成を支援し、ユーザの口コミによってコンテンツが効率よく配信・宣伝される仕組みを考えています。いわゆるビデオブログ(Videoblog)と呼ばれるものの一つの完成形であると思っています. これらの仕組みにより、低コストでかつ極めて話題性の高いコンテンツ配信の仕組みを提案します。

このSynvieプロジェクトはブラウザベースで、「映像に対するツッコミ」という機能がありました。実際のデモの様子がこちらです。

左側のツッコミボタンを押すと,映像の現在のシーンに対してコメントを付与できます. (Synbie デモ映像)

2005年にSynvieが登場し、その情報が株式会社ユビキタスエンターテインメント経由で株式会社ドワンゴにもたらされ、そうして登場したのが「ニコニコ動画」という流れです(「パクり」って表現は用いません)。私が当時勤めていた会社にもSynvieが「面白そうなプロジェクト」として紹介されたのを憶えています。

ただ、Synvieは集合知モデルでした。情報の発信者やコメントを入れた人が双方向でどんどん賢くなっていくモデルを志向していました。一方、ニコニコ動画はそういうモデルは志向していませんでした。それがプロジェクトの成否を分ける形になりました。

Synbieプロジェクトの人が、ニコニコ動画をどう思っているかは、ブログに綴られています。

その後、2007年にsynvie側がニコニコ動画に「謝辞」の掲載取りやめを求めました。ニコニコ動画側はその経緯に関して以下のように解説しています。

ちなみにニコニコ動画と同じ疑似リアルタイムチャットの動画サイトとしてsynbieというサイトがニコニコ動画以前にありました。ニコニコ動画のプロジェクトに外部から参加していたUEIの清水氏が、synbieを紹介し、ニコニコ動画の企画が固まる前に、それをわれわれは見てしまっていたため、清水氏の依頼により、ニコニコ動画は当初、synbieへの謝辞をサイトに掲載していました。しかし、その後、コンセプトが異なるため、ニコニコ動画と一緒にされるのが不本意であるというsynbie側からの要望があったため現在は謝辞は外しています。

([ニコニコ動画一周年] ニコニコ動画誕生までの軌跡)

Synvieの中の人、集合知を求めて猛烈に空振りしたんだろうな…。

最初に考えた人も、最初に普及させた人も、どっちも偉いのかもしれません。ただ、最初に考えた人が歴史や人々の記憶の中から消されることはあってはならないので、2010年で更新が終わったプロジェクトページやブログが閉鎖されないように見守りながら、語り部になってみました。

今夜もニコニコ動画でコメントします。