ディベート判例集

ディベート判例集

近年のディベートブームによって様々な学校や企業でディベート大会が開催されていますが、主にディベートへの経験 不足や理解不足によって、審判の判定が主観的なものとなってしまったり、ルールを無視した行為が多発しているようです。ディベートは客観的な論理力を競う ゲームであり、試合の勝敗は論理的に導き出されなければなりません。ここでは、僕がいた大東文化大学や、東京大学、立教大学、法政大学の有志が作成した 「ディベート判例」を掲載しています。この判例は、全関東学生雄弁連盟ディベートのルールについて過去の試合経験を元に解釈の統一化をはかったものです。今後様々な場所 でディベートの大会を開催する際の一つの参考になれたら幸いです。ディベートの立論のサンプルはこちら。

第1章フォーマットと試合形式上の制約

1フォーマット

ルールにおける矢印で示された順番以外での反駁は、まったく無効であり、何も言っていないことと同様に扱われる。


2DROP(沈黙)

1.ルールの誤用に対してDROPした場合は、その誤用が認められたものとして、誤用した側の主張が通る。

実例日本国政府は日米安全保障条約を破棄すべし

肯 定立論肯定側のメリット1は、「日本が自立外交を推進できるようになる」です。現在まで日本は軍事の面でアメリカに大きく依存しており、アメリカに配慮し た外交政策を打ち出さざるをえなくなっていました。しかし、在日米軍が撤兵することにより、日本外交の独自性が高まり、より国益や国際協調にかなった外交 を推進することができるようになります。証拠資料をあげます。・・・以上です。

否定一反肯定側のメリット1をTurnAroundし ます(相手側のメリットを自分のデメリットに取り込む)。肯定側のメリット1で独自外交の推進が主張されていますが、日本の独自外交の推進は、アジア諸国 に歴史的な日本脅威論を喚起させることになると共に、経済面で密接な関係にあるアメリカとの関係も悪化し、国際環境でも国内経済でも多大な悪影響をもたら すことになります。したがってメリット1はデメリットです。証拠資料をあげます。・・・以上です

肯定一反否定側は立論の段階でターン・アラウンドを行わなければなりません。第一反駁時点でターン・アラウンドを行ってくるのはルール違反で不当です(実際は肯定側の主張はルールを誤解している。否定側一反でもターン・アラウンドはできる)

否定二反……。(DROP)

解 説このとき、DROPはルールの誤用よりも優先される。したがって肯定側による(本来のルールを誤解した)主張が採用されることになる。これは否定側が肯 定側のルールの誤解を当然指摘して反論すべきであるにも関わらず、それを行っていないためである。ディベートにおいては、あたえられた情報のうち何が真実 と逸脱しているかを的確に把握して指摘する能力も審査の対象となる。ルールの誤用を指摘できずにDROP(沈黙)してしまったことは、否定側ディベーター のルール・リテラシー能力の欠如によるものであると判断される。


3.立論の特殊性

1.基本理念・語句の定義は立論の みで示すことができるものであり、立論以外で示してはならない。2.肯定側がカウンタープランを取り込む場合以外、プランは立論でのみ示すことのできるも のであり、立論以外で示してはならない。3.以下の例外以外、メリット・デメリットは立論のみで示せるものであり、立論以外でしてはならない。例外1:相 手側のメリット・デメリットの価値をTurnAroundさ せ、自らの立論にメリット・デメリットとして取り込むこと(肯定側第一反駁、否定側第一反駁において行うことができる)例外2:カウンタープランの導入に より発生するデメリットを、肯定側第一反駁で示すこと。4.立論のみで言えることを立論以外で言った場合、その旨を相手側が指摘すれば、その主張はまった く無効なものとなり、何も言っていないことと同等に扱われる。


4.尋問における主張

1.尋問における発言は、尋問する側が採用しない限り、まったく何も言っていないことと同等に扱われる。2.尋問された側は、尋問中に述べた発言の採用権を持たない。ただし、尋問された側が採用した発言は尋問された側も利用できる。

実例日本国政府は首都機能を移転すべし

肯定立論メリット1は新首都の新規着工に伴う経済的な波及効果が期待できるです(証拠資料を言わなかった)

否定尋問メリット1の主張について証拠資料はありますか?

肯定回答はい。立論では言えませんでしたがあります。経済評論家・齊藤貴義の『こんにちは、首都機能移転!』の59ページでは、「新都建設に伴う需要の発生が日本の様々な産業を刺激し、40兆円もの経済波及効果が生まれるだろう」と指摘されています。

否定一反肯定側はメリット1について立論中で証拠資料をつけていませんでした。したがって、経済波及効果がどのようにして、どれくらい生まれるのかまったく示されていません。よって、このメリットは成立しません。

肯定一反さっき尋問で証拠資料を挙げて、その中で40兆円と述べではありませんか。

否定二反尋問の採用権は、尋問した側、つまり我々否定側にあります。あの証拠資料を私達は採用していません。

肯定二反いや、言ったかぎりは証拠資料はあるんですよ。

解 説この場合、尋問中の採用権は、尋問を行った否定側にあるので、肯定側の主張は不当であり、証拠資料はないものとして扱われる。なぜこのような原則が適用 されるかというと、尋問で聞かれた内容に答えるというかたちを強引に利用して、尋問された側が立論以上の内容を次々と追加して、自分に有利な状況を築いて いくのを防ぐためである。したがって、論拠はすべて立論中で述べることが望ましく、尋問は尋問者にしか採用権がない。

実例日本国政府は首都機能を移転すべ し

肯定立論メリット1は新首都の新規着工に伴う経済的な波及効果が期待できるです(証拠資料を言わなかった)

否定尋問メリット1の主張について証拠資料はありますか?

肯定回答はい。立論では言えませんでしたがあります。経済評論家・齊藤貴義の『こんにちは、首都機能移転!』の59ページによると、「新都建設に伴う需要の発生が日本の様々な産業を刺激し、40兆円もの経済波及効果が生まれるだろう」と指摘されています

否定一反肯定側は尋問中で経済評論家の齊藤貴義氏の資料を挙げていますが、齊藤氏の試算には統計上の問題があることが知られています。そのことを裏付ける資料をあげます。佐藤太郎『世紀の愚行首都移転』の128ページによると、「この他、経済評論家の齊藤貴義氏が首都機能移転の経済効果を予測しているが、彼の数字は80年 代の日本のデータを元にしたものであり、さらにその多くが首都機能移転を推進する自治体のデータにのみ依っている。したがって実態の経済効果よりもはるか に高い値が出ている」・・・したがって、齊藤氏のデータは信憑性が乏しく、経済効果の資料として提示するのは不適切です。

解説この場合、否 定側は自分達が尋問で聞き出した証拠資料を採用し、それに対して反論を展開している。このような場合には、証拠資料はあるものと見なされる。3.反駁され た側が、尋問した側が採用していない尋問中の発言を利用して主張した場合、その旨を相手側が指摘すれば、その主張はまつたく無効となり、何も言っていない ことと同等に扱われる。


5反駁全般

何の主張に対して反駁したのかわからない反駁は、不当な反駁であるので無効であり、何も言っていないことと同等に扱われる。

実例

・肯定側の言っていることは全部間違っているんですよ。・あなたの言っていることは何個かつじつまがあわないんです。・(何についての反駁か指し示すことなしに突然)経済的な問題が大きすぎます


6.NewArgument

1.反駁する際にNewArgument(突 然の新しい論点)を提示した場合、その反駁は無効であり、何も言っていないことと同等に扱われる。論点は立論や一反など可能な限り早期に出すことが望まし く、そうでなければ議論が成立しないからである(分かりやすい例が肯定二反である。肯定二反で試合は終了するため、ここで肯定側が今までの議論とまったく 関係ない新しい論点をどんどん出してきても、否定側は反論の機会が存在しない。このような状況になるのを防ぐために、NewArgumentは無効となる)。

実例日本国政府は死刑制度を廃止すべし

肯定立論誤判によって無実の人が殺されるのを防ぐことができます。

否定一反今まで誤判は存在しませんでした。だから無実の人が殺されることはありません。

肯定一反いや、誤判は過去に存在しています。資料をあげます・・・です。

否定二反仮に誤判が存在しても、その数は少ないわけですから国家が死刑を停止する重要性は低いと言えます。

肯定二反否定側は一反で過去の誤判の存在の有無を論点として提示したのに、二反では誤判の数の重要性という新たな論点を掲げて反駁してきました。これはNewArgumentであり無効です。

解 説この場合、否定側は一反と二反で違う反駁をしている。否定側は一反で誤判の存在の有無を問題としたが、二反になって一転して誤判の存在を認めるような発 言をし(最初の論点を放棄し)、今度は数が問題だという新たな論点を提示している。これに対して肯定側は残り一回しか反論できる機会がない(さらに否定側 は新しい論点を言いっぱなしで試合終了ということになる)。したがって、否定側の主張は無効となる。否定側は二反でも誤判の有無という論点をより発展的に 追求するか、あるいは、二反ではなく一反の段階で「もし仮に無実の人が存在したとしても、その数が問題だ」という論点を提示しておくべきだっただろう。 2.NewArgumentのアピールがなくとも、審査員はNewArgumentの提示を判断し、主張の優劣を決することができる。


7.第一反駁

1.第一反駁で出してはならない主張・証拠資料を出した場合、その主張・証拠資料はまったく無効であり、何も提示していないことと同等に扱われる。(具体例:一反で立論の続きを言う、本来は立論で出すべき証拠資料を付け足す)

2.肯定側・否定側とも第一反駁で、相手側のメリット・デメリットの価値をTurnAroundさせ、自らの立論に取り込むことはできるが、すでに示されたメリット・デメリットの発生過程(発生理由)として取り込んではならない。


8.第二反駁

1.第二反駁で出してはならない主張・証拠資料を出した場合、その主張・証拠資料はまったく無効であり、何も提示していないことと同等に扱われる。

2.肯定側第二反駁で新しい主張・証拠資料を出すことは、否定側の反駁機会をまったく担保しないので、原則として認められない。

第二章ルールの説明

1論題に挙げられた語句の定義

(1) 肯定側が立論段階で、語句の定義(例:日本国政府、死刑制度など)について定義せず、否定側が尋問段階においてその内容を確認することなく議論が進行し、 議論が双方の定義認識のズレによってかみ合わなかった場合、その議論の立証責任は肯定側に存在する。ただし、否定側の方で明らかに不当な定義を行い、肯定 側がそれを指摘した場合は、否定側定義に基づく反駁は無効となる。

実例日本国政府は安楽死を合法化すべし

肯定立論(安楽死について定義せず)

否定尋問(安楽死の内容について確認せず)

否定一反安楽死の一種である尊厳死は法的に認められており、肯定側の言うようなメリットは発生しません。

肯定一反我々肯定側の安楽死の定義では、尊厳死は安楽死に含まれていません。

否定二反尊厳死が安楽死に含まれるということは誰でも充分推測できます。それは論題でもあるし、肯定側立論の語句の定義の段階で行っておくべきことでしょう。

肯定二反尊厳死が安楽死に含まれないことの方が推測できるでしょう。

解説このような水掛け論となった場合、立証責任により、肯定側立論の段階で語句の定義をしておくべきだという否定側の主張が通り、肯定側の解釈上の定義は無効となる。(2)肯定側定義の著しい不当性、否定側定義の妥当性が立証された場合、否定側の定義が採用される。

実例日本国政府は首都機能を移転すべし

肯定立論語句の定義を行います。首都機能移転とは、東京以外への国会のみの移転を指します。

否定立論肯定側の定義は、首都機能を構成する要素である首相官邸や最高裁判所、中央官庁などの移転を欠いており、不当です。首都機能移転とは、これらを含めた機能が移転することを指します。

解説この場合、否定側の方が首都機能移転として広く社会的に認知されている定義を使用しており、肯定側がよほどの根拠付けをしないかぎり、否定側定義が採用される。


2プラン

(1) プランは論題そのものでもかまわないが、きちんとした政策として明示するためには「すべし」という言葉を使わずに、「する」というような形に収める方が望 ましい。また、否定側はその不備を指摘することはできるが、それをもってプランそのものの不在を主張することは無効である。ただし、実現可能性の不備を根 拠付きで反駁し、その主張が通った場合には、プランはない(実行不可能な)ものとなり、肯定側の敗北となる。


4フィロソフィー
(1)フィロソフィーと主張が矛盾することが相手側に指摘され、それが通った場合、その主張は無効となる(例:日本国民の幸福をフィロソフィーに掲げつつ、日本の経済的不利益を背景に発展途上国の経済向上がはかれるという主張を述べたときなど)。

(2)フィロソフィーは出さなくても良い。ただし出さなかった場合には、プランの行為主体(日本国政府など)が「第一に守るべきと類推される価値」(日本国民の幸福など)がフィロソフィーとして扱われる。

(3) フィロソフィーどうしが価値比較され、片方のフィロソフィーがもう相手方のフィロソフィーより優位に立つことが立証された場合、フィロソフィーに依って立 つと相手側に指摘された重要性は、すべて相手側重要性より劣位に立つ。ただし、数量問題(このフィロソフィーの価値が低かったとしても、重要性で扱ってい るのは数量問題であるから、積されて重要性は保たれる)などのアピールがあった場合は、重要性は維持される。


5.実行可能性

(1)サブプランの実行可能性

プランと同じように物理的に不可能だという反駁が否定側からあり、肯定側が覆すことができなければ、そのサブプランは消滅する。

実例日本国政府は原子力発電所の着工を禁止すべし

肯定立論サブプラン1は水力発電所の増強です。日本各地の河川を利用して水力発電所を大幅に増強し、原子力発電所の着工を禁止したことに伴うエネルギー不足を解消させます。

否 定一反肯定側のサブプラン1は、日本の河川が大幅に水力発電所を建設可能であるという前提に立脚しています。しかし、現実問題として水力発電所が設置でき るのはごく限られた大きな河川だけです。資料をあげます。…以上です。したがって、水力発電を原子力発電に代替させるという肯定側サブプランは実行不可能 です。

肯定二反……(DROP)

解説否定側のサブプラン1に対する反駁に、肯定側からの再反駁がなかった。よって、サブプラン1は実行可能性がないものとして消滅する。(2)カウンタープランの実行可能性

サ ブプランと同じように実行可能性が否定され、複数のカウンタープランが一つでも消滅した場合は、カウンタープランによって発生する否定側のメリットはすべ て消滅する。立証責任については、カウンタープランを実行した際に否定側に移っているため、カウンタープランが消滅しても立証責任は否定側に残る。


6.フィアット

フィアットが効くのは、論題の実行主体に限られる。主体以外のものが存在するプランにはフィアットが効かない。つまり、実行主体(日本国政府など)以外は勝手に仮定することはできない。

実例日本国政府は単純外国人労働者を受け入れるべし

肯定立論サブプラン1として、日本国政府は発展途上国と多国間協定を締結し、労働力の出入国をその協定によって制御することとします。

否定一反発展途上国にはフィアットが効かないので、発展途上国が日本の協定の提案に同意するかどうか分かりません。したがってサブプラン1は実現可能性が立証されておらず、消滅します。

解 説実行主体(日本国政府)以外の発展途上国に関してはフィアットの及ばない範囲なので、条約を締結すると仮定することはできない。よって否定側の主張のよ うに、肯定側はサブプランの実現可能性を立証する必要があるにも関わらず行っていないため、サブプラン1は消滅する。(ただし、否定側が肯定側のフィアッ トが効かないことを主張しない場合は、フィアットは効くものと判断するので注意)


7.メリット・デメリット

(1)問題解決性

論理の飛躍(OverClaim)なく示されていること。つまり、プランによってそのメリット・デメリットが発生するという過程を充分に立証すること。ただ、どこまでが充分だと考えるかについては色々議論の余地が残るが、反駁をする隙の無い立証というのはあまりない。以下、論理の飛躍(OverClaim)についての例を示す。

実例日本国政府は日米安全保障条約を破棄すべし

否定立論デメリット1は、「日本が戦争に巻き込まれる」です。なぜなら、日米安全保障条約の破棄によって在日米軍が日本からいなくなることは、極東における中国の影響力の拡大を生じさせることになり、戦争が発生する可能性が高まるからです。

解 説この立論においては、在日米軍の撤退→中国の影響力の増大→戦争が発生する可能性が増大、という論立てになっているが、中国の影響力が増大することが、 なぜ戦争の発生確率を向上させるのかが示されておらず、論理の飛躍が存在する。したがって肯定側はそこを突いて攻撃可能であるし、否定側は本番でそのよう な弱点を突かれないように、中国の影響力の増大がなぜ戦争を引き起こすことになるかについて何らかの論証を探すか、別の立論に作り替えた方がいいだろう。 (2)重要性

メリット、デメリットは問題解決性と重要性でワンセットであり、重要性が全く違うならば、違うメリット、デメリットとして主張すること。仮に、重要性が二つ以上ある場合は、どれか潰せば、その重要性は全てなくなる。

実例日本国は首相公選制を導入すべし

首 相公選制の肯定側立論において、「首相のリーダーシップが強化できる」という問題解決性が作成されたとする。この場合、「首相のリーダーシップの強化は政 治運営の安定化がはかれて重要である」「リーダーシップの強化により議会からの独立性を保ち、民主主義の三権分立が明確化するから重要である」などの重要 性が提出されたとしたら、これらは一つの問題解決性に立脚した二つの論点であると解釈する。したがって、肯定側は一つのメリットに重要性を二つつけめので はなく、個々の重要性ごとにメリットをつくらなければならない。(3)内因性(固有性)その論点が示すプラスの利益またはマイナスの利益が、プランのみか ら発生すること。

実例日本国政府は首都機能を移転すべし

肯定立論プランは「日本国政府は首都機能を阿武隈高原地域に移転す る」です。サブプランは、「新首都に光ファイバー網など最新の情報設備を設置する」です。メリット1は、「首都機能の情報化が進展する」です。発生理由 は、サブプランにより、首都機能の移転先に最新の情報設備を置くためです。

解説上の立論は、果たして首都機能移転というプランなしには実現できないメリットだろうか。情報設備は現在の首都機能が存在する東京でも整備することができる。したがって、このメリットはプランとまったく無関係に(外 因的に)発生することになる。このような内因性のない主張ではメリット・デメリットを構成できず、相手側がそれを主張すれば敗北要因となる。

実例日本国政 府は首相公選制を導入すべし

肯定立論メリット1は、「首相がリーダーシップを発揮できるようになる」です。現状分析を行います。現行制度で は、首相は派閥抗争などの政権争いで忙しく、関係調整能力は優れていますが、リーダーシップを発揮できない状況です。しかしながらプランの導入によりこの 問題は解決します。

否定一反肯定側のメリット1の現状分析は間違っています。なぜなら…だからです。つまり、現行制度でも首相はリーダーシップを発揮できているわけですから、内因性がなくなりメリット1は発生しません。

解説これも内因性に関する議論である。内因性とは、例えば過去にマイナスの価値(リーダーシップの不在)がプラスの価値やゼロの価値(リーダーシップの実 在)に転じるような立論の時、本当に現在の価値がマイナスであるかが論じられることがある。ここでもし現在の価値がマイナスではない(プラン導入前もプラ ン導入後もプラスである)ことが立証されたならば、その主張は内因性がないということになる。

勝敗の決し方

1.論点主義と論点における優劣の基準

(1)審査は論点主義に基づいて行われる。

(2)論点における優劣の基準の要素は以下の3つである。

<論理的理由付け>論理的理由のある主張と無い主張とでは、論理的理由付けのある主張が優越する。

実例日本国政府は原子力発電所の着工を禁止すべし

否定一反原子力発電所は絶対に安全です。私が保障します。

肯定一反原子力発電所は危険です。なぜなら、…という理由があるからです。

解 説以上の例では、論理的な理由づけがなされている肯定側が優越する。<証拠資料(エビデンス)>論理的理由付けの優劣が同等とみなされる場合、証拠資料つ きの主張の方が優越する。なぜなら、単にディベーターが考えた論理的理由づけよりも、証拠資料上の科学的データ・専門家の意見に支えられた論理的理由づけ の方が、より信頼度・客観性が高いからである。ただし、証拠資料がついていることをアピールする反駁がない場合、証拠資料がついた主張とそうでない主張は 同等とする。証拠資料の証拠能力(調査方法・専門家の権威など)を攻撃することで証拠資料の客観性を削ることは可能であり、十分に削れた場合は、証拠資料 による優越は失われる。証拠資料は無いが、論理的理由づけのある主張と、証拠資料はあるが論理的理由づけのない主張とでは、証拠資料はないが論理的理由づ けのある主張の方が優越する。なぜなら、全関ディベートはロジック方式のディベートを採用しており、論理性を最も重視しているからである。なお、証拠資料 の優劣は、科学的データならば新しさ、精度、専門家の意見ならば、理由づけ、権威などの優劣の指摘により決定する。

<エビデンス・反駁の時 間的逓減>エビデンス・反駁は、立論、一反、二反の順にその有効性が逓減する。理由は早い段階で表明したものの方が、反論可能性が増すからである。特に第 二反駁において提示された、これまでの議論の延長線上にない新しい論点の有効性・信頼性は皆無として扱う。

(3)各論点における主張の位置づけの確認

個 別な論点の優越を吟味した後に、それらの論点により支えられているメリット・デメリットにおける各主張の位置づけ(内因性・問題解決性・重要性)を確認す る。その上で、論点の構造上少しでも成立しているものが比較考量の対象となる。この作業に関しては議論の場で特に主張が為されていなくても、審査員は確 認・判定を行うことができる。

(4)論点内の肯定側・否定側双方の主張がまったく互角の場合、あるいは優劣をつけかねる場合

論点内の肯定側・否定側双方の主張がまったく互角な場合、あるいは優劣をつけかねる場合、立証責任制度によってその論点は消滅する。すなわち、論点を提示して、かつ、その論点を守ろうとすることによって利益を受け取る側が立証責任を負って、その主張を不採用とする。
2比較考量

(1)各論点によって支えられているメリット・デメリットについて、内因性・問題解決性・重要性の三点すべてが少しでも残っているものが比較考量の対象となる。

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