政治・選挙用語集

政治・選挙業界の闇の用語集

衆議院選挙が近いので、2015年に書いた政治・選挙用語集の記事を復活させました。

ウグイス嬢

皆さんご存じ街宣車で候補の名前を決死の覚悟のように訴える女性のこと。ウグイス嬢を派遣する業者があって特に党派は関係ないので、同じウグイス嬢でも派遣先に応じて自民党の応援をやったり民主党の応援をやったりする。候補者の奥さんや知人の女性や支持団体の女性がウグイス嬢をやることもある。若くて綺麗なウグイス嬢だと街宣車の男衆の士気も俄然上がる。ベテランのおばさんウグイス嬢だと(ベテランの方が遙かに上手なんだけど)街宣車の男衆は割と沈黙してる。

カラス

男版のウグイス嬢(候補者以外)はカラスと呼ばれる。街宣車から勇ましく訴えることを使命とする。ウグイス嬢に比べて出番は少ないが、女性が確保できなかったときなどはカラスが活躍する。ベテランではないので最後には喉が切れてほとんど絶叫に近くなる。

為書き

選挙番組などでよく事務所に映っている「祈 必勝」と政治家の名前が書いてあるデカい張り紙のことを為書きという。為書きは送られてきたらとにかく事務所の壁に貼りまくる。壁に貼る場所が無くなったら天井に貼ったりする。これは選挙に与える影響は皆無に近いが、政治家にとっては年賀状のようなもので誰から送られてきたかは記録して、送った人が立候補するときには逆に為書きを送る。社交的な慣習だが、礼儀を尽くすのが極めて大事な世界。

名簿

選挙の中で極めて重要なのが支持団体などから提供される名簿。この名簿をどれくらい集められるかが選挙戦を左右する場合も多い(特に地方選挙)。「○○(支持団体)の推薦を受けて頑張っております、誰々です」「○○(議員や著名人)の紹介でご挨拶させて頂きます、誰々です」など、どこの紹介かを明らかにして「支持固め」に使われる。同窓会名簿が使われる場合もあるが、最近は禁止されているケースも多い。ちなみに同窓生は割と高い確率で支持者になってくれる。

地図落とし

各支持団体や議員から提出された名簿を元に、名簿に書かれている人の住所をゼンリンの住宅地図に蛍光ペンで一軒一軒マーキングしていく作業。何千人、場合によっては何万人もマーキングしていく途方もない作業。この地図は街宣ルートの策定や本当はやってはいけない戸別訪問に使われることが多い。最近は地図業者が開発した選挙用ソフトウェアで、ExcelやAccessやFileMakerなどから地図に自動的にマッピングできる方法が普及しつつある。しかし名簿は未だ紙ベースの場合が多いので、地図落としはほぼ必ず必要になる。

街宣車

業界では「宣車」と略されて呼ばれることが多い。街宣車を専門に扱う業者が存在する。街宣車は適当に街中を走り回っているように見えるが、実は前日に街宣ルートが決められている。街宣ルートは名簿の支持者宅が多い場所を重点的に回る。同じ選挙区で同じ党から複数の立候補者がいる場合は、「誰々は○○地区」「誰々は○○地区」など縄張りや地盤が分割される場合が多く、街宣車で回って良い場所と回ってはいけない場所が存在する場合もある(特に地方選挙)。街宣車の主要な目的は政策を伝えることではなく、支持者宅を中心に「選挙が近いですよ」ということを告知することにある。それと街宣車が移動している時間的制約もあり、無党派層を中心に苦手な人が多い候補者名の連呼が行われることになる。

朝立ち

早朝に駅頭や橋などに候補者が立って演説することを朝立ちという。朝立ちは街宣車よりはもう少しだけ内容のある話であることが多い。朝立ちは一見すると効果が無いように見えるが、毎日朝に立って演説している姿に心打たれて握手を求めてくる人が実際いる。朝立ちは侮れない。

空中戦

支持者固めではなく、駅など街頭で無差別に色々な人にビラを配ったり政策を訴えたり握手したりするのを空中戦と呼ぶ。空中戦は都市部では効果的だが、地方になると人が密集して歩いている場所は少ないのであまり効果が無い場合が多い。「桃太郎」と呼ばれる十数人規模で陣形を組んで街頭を行進して支持を訴える戦術もある。

ボランティア

選挙事務所はお金で雇われた運動員とボランティアによる人海戦術で動く。ボランティアは支持者や政策に共感した純粋な市民が来る場合も稀にあるが、大部分は労組や宗教など支持団体の動員である。ボランティアは地図落としや公選葉書の宛名書きや電話作戦やビラ配りなどに回される。たまに純粋な市民で政策に共鳴したすごく変わった人物が来て事務所の雰囲気を破壊することがあるが、そういう時は丁重に事務所の仕事からは遠ざけるようにする。

スパイ

実際にいる。ボランティアに紛れて宗教系の人などが入ってきて事務所内の情報を敵対陣営に内通する。事務所内でしか知らないはずの情報が敵対陣営に漏れていたり、あるいは何故か敵対陣営の内部の動きが情報として伝わってきたりする。秘書を中心にスパイにはかなり気をつけている。

公選葉書

選挙期間中に有権者に送ることが出来る葉書。国政選挙や地方選挙などによって枚数が決まっている。公選葉書には必ず誰からの紹介で送っているかを記入する欄がある。最近は名簿のデータを元にプリントアウトするところが増えたが、手書きの方が熱意が伝わるという理由と、事務所内で暇な中だるみの雰囲気をつくらないために、ボランティア(≒動員された人)にボールペンで宛名書きをお願いすることが多い。国政選挙だと数千通を書くので、これも人海戦術の途方もない作業。書き終わったら郵便局に輸送する。

電話作戦

名簿を元に支持者宅に電話を掛ける。事務所はそのために複数の電話回線を契約する。「○○の紹介でお電話させて頂きました、誰々事務所でございます」から始まって「厳しい選挙戦ですが、只今一生懸命頑張っておりますのでよろしくお願いいたします」ということを伝える。電話はボランティアしか行ってはいけないことになっている。お金で雇われた運動員が電話をすると公職選挙法違反になる。誰に電話を掛けたのかは名簿のコピーに印をつける。このとき、相手の反応をメモする。好意的な応対だったら「○」、ただ聞いているだけだったら「△」、ガチャ切りや「もう掛けてこないでください」だったら「×」など。その集計結果は毎晩の選対会議で報告される。

電話作戦の裏技

電話は投票日に有権者に掛けてはいけない。しかし裏技があって電話を掛ける方法もある。「私達は選挙に投票しようと皆様に呼びかける活動を行っているものでございます。今日は投票日です。投票に行かれますよう是非よろしくお願いいたします」と事務所名を名乗らずに投票を呼びかける自発的な団体であることを話して、名簿の支持者宅に電話を掛ける戦術がある。

ポスター

支持者宅でポスターを貼ってくれている場所はゼンリンの地図上に全てメモされている。ポスターは選挙期間に応じてボランティアが車で回って張り替えを行う。公設掲示板に貼るポスターは、選挙管理委員会で告示日に行われるくじ引きで貼る位置(番号)が決まる。その番号を連絡してボランティアが車で一斉に貼って回る。

立会人

各投票所にボランティアを立会人として派遣する。各陣営の立会人はずっと座って投票行動が正しく行われているかを見守る。投票時間終了後、投票箱が公民館などに集められるが、ここにも各陣営から人を派遣する。開票作業で文字が汚かったりして誰に投票したのか判別がつきにくいものがある。それを「これは誰々に投票したものです」と主張する役目である。判別がつかない場合は、1票を分割する。たまに選挙区の最終開票結果で小数点がついていることがあるが、これは各陣営で1票を分割したことによるものである。また開票状況から情勢を事務所に速報を入れる。

当選・落選

慣習的に開票作業が行われているときは候補者は事務所にいないことが多い。自宅か近場のホテルに待機する。当選確実または落選確実になったときに事務所に現れる慣習になっている。最近は最初から事務所にいる人も増えてきたけど。