大本営はB29「エノラ・ゲイ」の情報を事前に察知していた

大本営の陸軍将校に堀英三という人物がいました。彼は情報分析のプロフェッショナルで、連合国軍の作戦に一定の法則性があることを見抜き、フィリピン決戦における連合国軍のフィリピン上陸の日時や規模や侵攻ルートなどをピタリと的中させました。そのため、彼は大本営において「マッカーサー参謀」という異名を持つようになります。彼は『敵軍戦法早わかり』という文書を書き記し、米軍への水際での突撃や夜間の銃剣突撃を行わない方が良いという情報を全軍に伝達しています。この伝達が活かされた事例に硫黄島の戦いがあります。

その堀英三の回顧録によると、大本営や陸軍特種情報部は連合国の暗号文を解読することは出来ませんでしたが、そのコールサインの符号に共通の法則があることに気付き、マリアナ方面のB29のかなり正確な数を把握していたとあります。

さらに彼らは特殊任務機の存在に気づいていました。

昭和19年末,田無にある陸軍中央特殊情報部(特情部)ではサイパン,グアム,テニアンに展開するB-29の編成・機数の情報をコールサインの規則性から推測することに成功していた. それによるとサイパン駐留の機体には400番台,同グアム500番台,同テニアン700番台の符号を使用し,一飛行戦隊が112機で編成されているところまで突き止めていた.

昭和20年5月,新たにホノルルからテニアンに600番台のコールサインが付せられたB-29が加わった. この部隊は離陸する前にワシントンに直接打電するという極めて奇怪な行動をとった. しかも不思議なことに,この戦隊の編成は10機~12機という極めて少数であることも判明した. 特情部ではこの謎の部隊機を「特殊任務機」と呼称し特に警戒して注視することになった.

8月6日午前3時,この「特殊任務機」がワシントンへ短い電波を送りテニアンを離陸したのを特情部は探知した. 無論内容は判らない.部内は大緊張をはじめたが,それ以後,午前4時に硫黄島の航空基地に対して「われら目標に進行中」の無線電話を発信したのち無線封止したのか,電波は一切出さなくなってしまった.

大本営に原爆投下の知らせが届いたのは,その日の午後になってからだった. 特情部がスウェーデン経由で入手した暗号解読機で米軍暗号の解読に成功し,原文から「nuclear」の単語が現れたのは8月11日のことで,関係者は地団駄を踏んで悔しがった.(堀栄三著『大本営参謀の情報戦記』より要約)

また、大本営は、外国通信社からの記事で、ニューメキシコ州で新しい軍事技術の実験が行われたことについての情報も把握していました。今となってはの話であることは確かですが、日本軍も原爆製造計画を独自に立てて福島県石川町でウランを採掘したりしていたので、これらの情報が全てリンクしていたならば、特殊任務機が発進した時に日本全土に対して特別警戒を呼びかけることは可能であったのではないかと推測することもできます。

広島への原爆投下も、爆心地付近での死傷率は99%を超えていますが、爆心地から170メートルの至近距離にいながら燃料会館の地下室で作業していたため生存でき、1982年まで生きた野村英三さんという方もいます。地下に入ることによって、熱線などの被害を軽減できたのです。もしあの時、多くの人が地下壕に入っていたら…と思うと無念です。
風船爆弾と原子爆弾

私の大学の近くに埼玉県立平和記念館という博物館があって、そこで郷土の歴史資料として第二時世界大戦中の風船爆弾の模型が展示されていました。

風船爆弾は、アメリカ本土を爆撃するために日本軍が開発した兵器で、和紙とコンニャクのりで作られた風船に焼夷弾を積んで、太平洋沿岸から偏西風に乗せて1万発が飛ばされた。話だけ聞くと本土決戦しか打つ手がなくなった日本軍のやけくその作戦のように思えるけれど、実際には5~10%程度が北米に着弾しました。かなりの確率といっていいように思います。歴史上初の大陸間兵器です。

埼玉県小川町は風船爆弾の和紙製造の一大拠点で、そこで製造された和紙が、風船爆弾の組み立てに使われた日本劇場や東京宝塚や両国国技館などに大量に運ばれました。

日本軍はこの風船に兵士をのせて、アメリカ本土で破壊活動を行うことも想定していた。米軍は、日本軍が風船爆弾に毒ガスなどの化学兵器や生物兵器を搭載することを恐れていました。アメリカでは報道管制が敷かれて、風船爆弾の被害は報道されず、具体的な戦果が見えなかったので作戦は中止されました。

風船爆弾の意外な戦果として、日本に投下する原爆をつくっていたリッチモンドのプルトニウム製造工場を停電を起こさせて、長崎型原爆の製造をわずかながら遅らせたという事例があります。この事実がほとんど知られていないのはどうしてなんだろ…。

堀英三の情報分析も含め、この辺の経緯は戦後になってGHQが徹底的に調べていますが、戦後長らく封印されてきた歴史です。