近代ヨーロッパの孤独について
現在、世界を動かす様々なシステムや理念は、近代ヨーロッパの社会的文化的影響を強く受けている。しかしながら、我々は必ずしもヨーロッパの発展の要因を解明したとは言い難い。ここでは、産業革命の衝撃を受けた直後からのヨーロッパを、「孤独」という視点から、様々な側面ごとに分析した。哲学者ニーチェの主張もふまえながら、現代を覆う「近代ヨーロッパ発の危機」の構造を見ていきたい。
産業革命の衝撃(社会構造の孤独)
(1)前産業社会の崩壊
前産業社会…伝統本位主義的な価値体系の支配する長期準停滞社会
基本的な構図:自然に対するゲーム
人間と自然との関係:人間<自然
時間(生活のリズム):自然のリズム
生産と消費の関係:生産<消費
社会的性格:伝統指向型
(2)プロテスタンティズムに支えられた工業化社会の到来
大量生産(生産の倫理、禁欲の倫理)=大量消費(消費の倫理、禁欲の倫理)
(3)人間の価値が資本に代替される
ブルジョワジーとプロレタリアートの分化
(4)資本蓄積の欲望の拡大
帝国主義による世界の一体化(文明の孤独)
(1)先進国の経済が1870年代半ばから「大不況」
中小企業の統合・独占資本主義への移行
商品や余剰資本を輸出するための海外市場を求める
(2)植民地による政治的軍事的統治
(3)人と物の移動がヨーロッパ型近代世界システムを支える
中心-半周辺-周辺の構造(I.ウォーラスティン)
(4)「野蛮の発見」によるアイデンティティの形成
(5)社会進化論の発見
社会進化論…ダーウィンの進化論に基づき、自然と人間活動の全領域において進化の原理を適用しようとする考え。帝国主義時代、社会進化論は その対象を個人から階級、民族、人種、国家のような集団へ広げる一方、一部知識人の理論的仮説から、疑似科学によって裏付けられた大衆まで含む社会の確信 に、すなわち帝国主義時代の代表的時代思潮となった。
(6)国民国家の制度的矛盾とナショナリズムの創出
「白人の責務」(J.R.キップリング) 「黄禍論」(ヴィルヘルムⅡ世)
(「ヨーロッパの各民族よ、諸君らの神聖な富を守れ」)
世界に人類の運命を決する大きな危機が近づいている。
その第1回の戦争は、我ら白色人種のロシア人と
有色人種日本人との間で戦われた。
白色人種は不幸にして敗れた。日本人は白人を憎んでいる。
白人が悪魔を憎むように憎んでいる。
しかし、我らにとって日本そのものが危険なわけではない。
統一されたアジアのリーダーに日本がなることが危険なのである。
日本による中国の統一。
それが世界に脅威を与える、最も不吉なことである。ウィルヘルム2世(ドイツ皇帝)の談話
アジア諸地域の抵抗運動
(アヘン戦争でイギリスの蒸気船の砲撃を受ける中国の木造帆船)
(1)当初はアジア側のみじめな敗北
(2)腐敗した王権の打倒と帝国主義への理論的抵抗
(3)「伝統の発見」→真理の価値転倒
「ヒンドゥー・スワラージ」(M.ガンディー)
ヒンドゥー・スワラージ…1909年にガンディーが執筆した運動論。基本的な論点は、真の敵はイギリスの政治支配ではなく、近代工業文明そのものであるとする。
(4)ヨーロッパと異なるかたちの「大衆の出現」
<しかし>
(5)必要に迫られてのヨーロッパ社会思想、科学技術の輸入
フランス人権宣言の民族自決への応用
→ヨーロッパ型近代国民国家の模倣
(6)アジア諸国内でも反帝国主義的帝国主義の目覚め
→近代型軍事力の整備、侵略的軍隊の創設
(7)近代的官僚機構による社会構造の合理化
→自由な自我の抑制 「舞姫」(森鴎外)
(8)黄禍論による文明対決の時代へ
(9)帝国主義国としての日本の台頭
神の死と超人の出現(哲学の孤独)
ニーチェの哲学展開(「神の死」と「超人」を中心に)
(1)神(最も神聖かつ強力なもの)の抹殺
→無意味、無根拠、人間の新たな時代……
神の死と新たな段階への無知→ニヒリズム
(2)超人思想の要点
1.人間がこれまで持っていた「理想」は、本質的にルサンチマンを内包している。したがってそれは、結局「生の否定」に行き着かざるをえない。
2.「神の死」という事実は、これまでの一切の人間的価値の根拠が抹消されたことを意味する。そのために近代哲学以降の諸価値はニヒリズム的本性を露出させた。
3.このヨーロッパのニヒリズムを克服する方途はただ一つ。古い価値への立ち戻りを禁じ手にして、むしろニヒリズムを徹底すること。つまり既成の価値の根拠を根底的に捨て去り、積極的に新しい価値の根拠あるいは新しい価値の目標を打ちたてることである。
4.新しい価値の根拠とは何か。……「力への意思」ということ。新しい価値の目標とは何か。……「超人の創出」ということ。
「なんのために私達が生きているのか、なんのために苦しんでいるのか、それが分かったら、それが分かったらね!」(『三人姉妹』チェーホフ)
→ニーチェは答える。この問いに答えられる者はもはや誰もいない。この問いの答えは存在しない。世界と歴史の時間にはどんな「意味」も存在 しない。そして、それにもかかわらず君は生きていかねばならず、したがって「なんのために」ではなく「いかに」生きるかを自分自身で選ばなくてはならな い。
5.孤独の根元からくるもの(永遠の孤独)
(1)国家へのアイデンティティの追求
(2)孤独の深淵から来る暴力(ファシズム運動、個の暴走……)
(3)アジアにおける孤独の普遍化
(4)「すぐれて合理的であること」と地球規模の問題群
(5)相対化というヒーリング
(6)超人は出現するのか?