マクドナルド化する社会

マクドナルディゼーションとは

マクドナルディゼーションとは、ファーストフード店の諸原理が、世界の国々のますます多くの分野で優勢を占めるようになる過程のこと。社会学者ジョージ・リッツアが『マクドナルド化する社会』において書き表した。

  • 1996年〜1997年にマクドナルドが全世界に行った出店のうち、20パーセントは日本で行われた。2001年現在、日本には3000店ものマクドナルドが存在し、長期的には10000店達成を目指している。
  • ・マクドナルドが急速に拡大した過程には、以下の4つの要因がある。

効率性

多様な社会状況の中で、マクドナルドは効率の最大化を追求した。すなわち、生産過程を簡素化し、商品の単純化をはかることによって、消費者に空腹から満腹へ移動するための最良の方法(迅速な調理、ドライブスルー)を提供したのである。

生産過程においては、あるゆる実験が繰り返されて、最も効率的に調理可能な方法がマニュアル化された。駐車場を店舗に隣接させたので、わずかな距離を歩いて店舗に入り、わずかな時間で食事ができる環境を実現させた。また、商品の種類が限定されているので、客は膨大な種類の中から選択する手間がなくなった。

さらに、マクドナルドの効率化に何よりも貢献したのは、「客に働かせる」という作用であった。マクドナルドにおいて、客は、列をつくって注文を告げにいく。そして食べ物をテーブルまで運び、ゴミを捨て、トレイを片づける。ドライブスルーの場合には、食事をする場所の確保やゴミの処分も客自身が行うことになる。伝統的なレストランがやっていた作業を客に行わせ、かつ、それを客に非効率と思わせないことによって、マクドナルドは効率化に成功したのである。

計算可能性

マクドナルドは、計算可能性も重視した。ここで言う計算可能性とは、販売商品の量的側面(分量と費用)、サービス(商品を手に入れるまでにかかる時間)のことである。客がマクドナルドで売っている商品の量と費用を考え、それがどれくらいの時間で提供されるかを考えていること、に目をつけた。そして、何かが沢山あること、商品の手渡しが迅速であることを「商品の質も良いものに違いない」と思わせ、「大きいものは良いことだ」と思わせることに成功した。

だが、実はこの計算可能性の利点は、まやかしにすぎない。バーガーを包んでいるやすいパンは、実際よりも大きく見せるように調理されている。さらに、量についての幻想を助長するために、バーガーや様々な付け合わせはパンズからはみだすように大きさが設計されている。ポテトも、赤い紙の入れ物に入っているところに仕掛けがあるが、実際は値段相応のわずかなポテトしか入っていない。ジュースも、氷の分量を多くすることによって実際よりも大きく見せかけている。これらのことは、マクドナルド化されたファーストフード店が莫大な利益をあげていることからも明らかである(バーガーキングでは、フライは経費の400パーセントで売られ、飲み物は600パーセントの利幅を含んでいる)。それゆえ、消費者の計算は間違っている。消費者は、安くたくさんの食べ物を得ているわけではなかったのだ。

さらに、マクドナルドは生産過程においても様々な仕掛けを導入している。「ファテライザー」を導入して、ハンバーガーの脂肪が規格どおり19パーセント以下になるようにしている。脂肪含有量が多いと調理中に縮んでしまって、パンからはみだすほどの大きさをアピールできないからだ。

予測可能性

マクドナルドは、提供する商品とサービスが、いつでもどこでも同一である。さらに、マクドナルドは、今週食べても来年食べても、味はまったく同じである。マクドナルドは高度にマニュアル化されたプログラムにもとづき、材料の種別などを厳格に規定している。そして、人々は、それを「知っている」。人々は、そこそこの味を楽しみ、意外な驚きがほとんど存在しない世界を選考するようになってきている。

また、店員も予測可能な仕方で振る舞う。マクドナルドに入店すると店員が何を話すのか、どんな動作をするのか、客はあらかじめ予測できる。マニュアルに基づいて予測される行動に、人々は安心感を感じる。店員の側から見ても、仕事が楽になり、迷いなく効率的に作業できる。実際、予測可能で繰り返しの多い作業を好む店員も多い。

マクドナルドは店の構造の複製も行っている。マクドナルドの赤と黄色の派手なロゴは、予測可能性の感覚を想起させることをねらっている。「コピーされた色とシンボルは、何マイル先でも、またどんな都市でも、予測可能性やマクドナルドと何百万もの客とのあいだの長い年月にわたって変わることのない関係を暗に約束するものとして作用する」。カウンター、メニューの看板、奥に見えるキッチン、テーブルと椅子、目立つゴミ箱、ドライブスルーの窓、どれもが予測を裏切らずどこでも同一である。

制御

マクドナルドは、できるだけ人間によらない技術体系の開発を長年にわたって続けてきた。人間が判断する分野をできるだけ少なくし、より管理しやすいシステムを築いた。たとえば客は、行列すべきライン、限られたメニュー、追加注文の品数の少なさ、やや座り心地の悪い椅子など、経営戦略上必要な「早く食べてすぐに出ていけ」という方向に誘導されている。従業員は客よりも高度に制御される。従業員は、教えられたとおり正確に、ごく限られた業務をするように訓練される。店長や監視員は、従業員が自分の職務をきちんと果たしているかをチェックする。