家族とは

家族とは何か

家族とは何でしょうか。私達は家族と聞くと、通常は「夫婦と子供」を基本形態とする核家族をイメージします。しかし、社会には母子家庭や父子家庭もあります。世界全体で見るならば、一夫多妻の家族もいれば、一妻多夫の家族もいます。一夫一妻制が人類にとって一般的な夫婦の形態と見なすことが必ずしも正しいとは言い切れません。たしかに”人数”の上では一夫一妻制は今日の世界で最も支持されている形態ですが、ジョージ・マードックという文化人類学者が世界の849″種類”の社会を調査した結果、一夫一妻制を採用している社会はわずか16%にすぎず、一夫多妻制が83%を占めることが明らかとなりました(一妻多夫制は0.5%)。

さらに、文化人類学の世界でよく引き合いにだされるナヤール族では、男性は通い婚で女性を妊娠させますが、その子供の世話は母親の親族がみることになっており、私達の社会でいうような「夫婦と子供」の繋がりはあまり大きな意味を持っていません。「家族」の形態について、すべての人類社会に共通するような特徴を見つけるのは非常に困難です(文化人類学の世界では、そのような点を考慮し、家族という言葉はあまり使われなくなってきているそうです)。

家族の機能に注目しても、その内容が文化や時代によって大きく変化しており、すべてに共通する定義を見つけることは困難であると言えます。現在、近代化を遂げた国々では、家族は愛情によって結びついているという見解が一般的ですが、前近代社会の家族においては、愛情による集団というよりも生活共同体として認識されていた傾向が強く、恋愛による夫婦の誕生や子供への強い愛着もごく最近になって見られるようになった傾向です。

差し当たりこのサイトでは、「家族」について、「夫婦関係や親子関係、もしくはその連鎖で結ばれた特定範囲の人たちからなる集団」という最低限の定義を与えますが、前述のように、家族という言葉の意味が非常に多義的なものであることをたえず念頭に置いて考えていく必要があります。

家族の類型

私達は父・母や兄弟といった家族の中で生まれ、家族の中で助けられたり教育を受けたりしながら育ちます。このような子供の視点から見た家族は、定位家族と呼ばれます。定位家族は親子関係によって支えられています。一方、成長した子供はやがて誰かと結婚して子供を産むことを決定し、家族を形成していくことになります。このように結婚した男女から見た視点での家族は生殖家族と呼ばれます。生殖家族は夫婦関係によって支えられています。

多くの社会には、インセスト・タブー(近親相姦禁止規則)があり、一般に定位家族の異性の中から配偶者を選択することはできません(まれに例外もあります)。人は自分と異なる定位家族に属する異性と生殖家族を形成することになります。このため、一つの生殖家族の背後には二つの定位家族が存在し、T字型の結合家族が成立することになります。このような結合によって誕生した、夫婦とその子からなる家族は核家族と呼ばれます。核家族は、単独で存在する場合もあれば、組み合わさって複婚家族や拡大家族として存在する場合もありますが、人類社会のほとんどの家族で確認される普遍的な家族の結合形態です。核家族には、(1)夫婦の間での性的欲求充足の機能、(2)家族員の緊張処理機能、(3)消費家計を共同にする機能、(4)育児および子供の社会化機能、(5)夫婦及び親子の間での愛情ないし一体感をつくりだす機能があると考えられます。

さらに、家族の形成過程を中心にパターン化すると、家族は以下の夫婦家族制、直系家族制、複合家族制の3つの類型に分類することができます。

夫婦家族制は、その家族に一生涯とどまるべき成員が夫と妻に限定されている家族制度です。家族は結婚によって成立し、死亡によって消滅します。子供は成長するにしたがって親元を去って自分の生殖家族をつくり、独立した生活単位を構成します。この家族類型は、労働力の地域移動、個人主義、平均寿命の長さ、夫婦の老後の生活も支えられる社会保障制度と所得水準などの条件に支えられています。イギリス、北欧諸国、アメリカなどではこの形態が一般的です。

直系家族制は、夫婦とその後継ぎの夫婦によって構成される家族制度です。後継ぎ以外の生殖家族は、同居することはあっても長期間いることはありません。一方、後継ぎは最終的にはその家族に復し、親の持つ財や地位が独占的に継承されことになります。これによって家族が直系的に再生産されます。この家族制度では、親子の世代間扶養が容易となりますが、個人の幸福追求は制限されます。フランス、ドイツ、アイルランド、北イタリア、北スペインなどの農村、日本やフィリピンなどの農村に広く存在します。

複合家族制は、夫婦と複数の既婚夫婦によって構成されます。この制度は多人数の家族を現出しやすいですが、父死亡の後、子供が生殖家族ごとに分裂する傾向があります。したがって家族の構成員も流動的であり、遺産も均分に相続されます。平均寿命が短く、子供が一人前になる前に親が死亡する確率の高い社会において、兄弟間の扶養を確保するのに適しています。インドの高級カースト、旧中国の貴族・地主階級、バルカン僻地のザドルガと呼ばれる家族などがこの形態です。

アメリカの人類学者アレンズ・バーグによれば、人類の家族類型は、一般的に、複合家族制→直系家族制→夫婦家族制へと移行してきたと言われています。さらに、この変化が不可逆的であるとも指摘しています。

家族と社会の関係

家族は、私達の様々な物の考え方が凝縮された社会集団であることにも注意する必要があります。例えば私達は、凶悪な少年犯罪が起きると、その家族がどうなっているのかに注目する傾向があります。また、社会の秩序が乱れてくると、それは家族の機能不全が原因なのではないかという論調がマスコミをにぎわすことがあります。その当否は別として、私達は、個人の行動や社会の安定と、家族の安定とを密接に結びつけて考えているようです。

注意深く考えてみると、このような傾向や言説には、2つの暗黙の前提があることがわかります。一つは、家族の安定が個人の幸福や社会の安定につながるという前提です。もう一つは、家族とは愛情を培う場であり、家族はその目的を達成するために努力するべきとする前提です。今までの家族を巡る論争や視点は、この二つの前提を自明のものとして展開され、前提自体が検証されることはほとんどありませんでした。しかし果たしてこれらの前提は本当に正しいと言えるのでしょうか。

例えば、「家事労働」のページで引用している『AERA』記事のように、家庭の安定のために献身することが、専業主婦の心の中で様々な葛藤や自己嫌悪感を生んでいる場合もあります。このような家庭は外見上は安定していますが、むしろそれによって感情マネージの面で多くの問題を抱えています。感情マネージが完全に破綻したら、突発的に家族の崩壊が起きたり、あるいは家族の中で抱えていたストレスが外部へと向かうことも考えられます。逆に、外見上は個々人が家族としての義務を果たさず、一見崩壊しているように見える家庭が、そこそこの幸せを見つけながらうまくやっている場合もあるでしょう。確かに「家族の安定」が個人の幸福や社会の安定につながることも多いのですが、「そうならない可能性」(例外状況)にも眼を向ける必要があります。近年、一部の家族社会学者から「家族は安定していなければならないという言説が社会に過剰に横行していることが、家族を巡る問題を見えにくくし、深刻化させているのではないか」という指摘も出されています。

家族は愛情を培う場でなければならない、現代の社会問題は家族の愛情が欠けてきたことにも原因があるのではないか、という言説についても、確かにそういう部分がある一方で、もう少し慎重になって考える必要があります。現代は、歴史上最も「家族の愛情」が注目され、実践されるようになった時代です。後で触れますが、子供を思う親心はいつの時代にも存在しましたが、家族は子供を保護する必要がある、子供を愛情を持って養育しなければならない、という意識が社会的に強くなってきたのは近代になってからです。また、現存する無文字社会の部族の中には、子供の養育や保護にあまり関心を払わない部族もあります。それでは、前近代社会や無文字社会の部族は、家族愛が明確に確立していなかったから家族を巡る問題が多いかというと、そうでもないようです。むしろ現代の方が深刻な場合もあります。「両親は愛情が足りないのではないか」「夫は愛情が足りないのではないか」「妻は・・・」という具合に、絶えず「愛情」という尺度でもって家族が計られることが多くなりました。

ここでいう「愛情」の実態には、私達の意識しないところで、記号としての愛情、情報としての愛情が入り込んでいる場合があります。例えば他の家族ではもっと愛情を持って接していたとか、テレビではこういう感動的な家族愛が紹介されていたとか、そういった情報が入り込んで愛情の基準を形成していきます。このような状況の中では、「愛情のあり方の多様性」は無視される傾向が出てくると言えます。絶えず情報としての愛情に近づける必要性が出てきたり、愛情不足を理由に家族の危機やストレスが発生するような事態も出てきます。確かに現実に家族が完全に崩壊し、まったく愛情が存在しない家庭が増加しているのも事実です。しかしその一方で、「家族は愛情がなければならない」「現代の家族は愛情が欠けている」という言説に過剰に煽られることによって、本来は多様な愛情のあり方の中でそこそこうまくいっていたはずの家族にまで、危機が発生しやすくなっている実態もあると言えます。家族を考えるにあたっては、とかく理想論になりがちですが、その理想的な家族イメージ・愛情イメージが「何を生みだしてきたのか」も含めた冷静な検証も必要です。

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