特別支援教育とは何か

P1010016

特別支援教育とは

特別支援教育の目的は、学校教育法第72条において、以下のように規定されています。

特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。

つまり、一方では心身に障害があっても、障害のない子どもが通常の学校で受ける教育と同等の教育を受けるべきであるとしつつ、その一方で、特別支援学校として、その障害に関わって必要な知識・技能を授けることを特別支援教育の目的としています。この法律は、名称変更に伴う修正はあったものの、学校教育法制定当時(1947年)から継承されています。そしてこの構成は、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領の第1章総則の第1節・教育目標においても繰り返されています。

小学部及び中学部における教育については,学校教育法第72条に定める目的を実現するために,児童及び生徒の障害の状態及び特性等を十分考慮して,次に掲げる目標の達成に努めなければならない。

  1. 小学部においては,学校教育法第30条第1項に規定する小学校教育の目標
  2. 中学部においては,学校教育法第46条に規定する中学校教育の目標
  3. 小学部及び中学部を通じ,児童及び生徒の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服し自立を図るために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うこと。

特別支援学校であっても「目標」は通常学校と変わらない、という主張がまず示され、その目標の実現のために、障害に伴う困難への対応がなされる、という構造をとっています。ここで重要なことは、「障害がある子供の教育にあっても、教育目標は通常教育と変わらないものだ」というメッセージが、まず最初に示されているということです。つまり、通常教育との本質的同一性が示されて、その上で、その教育目標からは外在的なものとして、障害に関する専門性が位置づけられているということです。

特別支援教育の歴史

日本の特別支援教育は、戦後の義務教育制度が始まってからも、「就学猶予」「就学免除」の名の下に重度の障害児を不就学としてきました。しかし、1979年の養護学校義務化により、全ての子どもの完全就学が実施されました。これにより障害児の教育水準が向上する一方、通常学校との分離教育が進みました。

2006年に学校教育法が改正され、「特殊教育諸学校(盲学校、聾学校、養護学校)」は「特別支援学校」へ、「特殊学級」は「特別支援学級」へ名称変更が行われました。特別支援学校の制度化は3つの有識者会議を経て実現されました。

1つは2000年1月に示された「21世紀の特殊教育のあり方について〜一人一人のニーズに応じた特別な支援のあり方について〜(最終報告)」です。ここでは「特殊教育」という用語は使用されているものの、「盲・聾・養護学校や特殊学級などの特別な場において、障害の種類、程度に応じた」教育という従来の考え方から、「障害のある児童生徒等の視点に立って児童生徒等の特別な教育ニーズを把握し、必要な教育的支援を行う」と述べられているように、「特別な教育ニーズ」という概念が導入されています。これにより、盲・聾・養護学校の一元化の必要性や、通常学校で学ぶ発達障害児への対応といった、「特別支援教育」への制度改革の検討が始まっていきます。

次に、2002年3月に「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が示され、ここで「特殊教育」は「特別支援教育」へと姿を変えることになります。個別の教育支援計画の作成、特別支援教育コーディネーターの配置、盲・聾・養護学校から特別支援学校へ、通常学校におけるLD、ADHD等への対応など、「特別支援教育」の制度改革の骨子はここで決められました。

そして最終的に、中央教育審議会において「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」が2005年12月に示され、翌年に法改正が実施され、2007年から「特別支援教育」がスタートしました。

現在は、2006年に国際連合で採択された「障害者権利条約」の批准を目指して、法制度改革が進められています。障害者権利条約は現在120カ国以上が批准していますが、日本政府は国内法の整備が十分ではないという判断から批准に至っていません。そこで必要な法改正を行うべく、障がい者制度改革推進会議が発足し、2010年の閣議決定では以下のようにインクルーシブ教育(障害の有無によらず、誰もが地域の学校で学べる教育)へのシフトが求められました。

障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるという障害者権利条約のインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえ、体制面、財政面も含めた教育制度の在り方について、平成22年度内に障害者基本法の改正にも関わる制度改革の基本的方向性について結論を得るべく検討を行う。

そして、これを受けて、2011年8月5日に施行された改正障害者基本法第16条では、以下のようにインクルーシブ教育が明記されました。

  1. 第十六条  国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。
  2. 2国及び地方公共団体は、前項の目的を達成するため、障害者である児童及び生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重しなければならない。

このように現在では、改正障害者基本法に基づいたインクルーシブ教育の実現へ向けての動きが活発化しています。

知的障害児教育における「合わせた指導」

しかし、特別支援教育には様々な問題が存在します。その一つが、知的障害児教育における「合わせた指導」です。特別支援学校小学部・中学部学習指導要領においては、通常教育で設けられている各教科・領域については、知的障害があったとしても同様に履修が求められています。

しかし、知的障害の状態が重度であり、知的発達が未分化である場合、教科学習には現実には困難を伴います。このため、学校教育法施行規則第百三十条では、以下のように規定されています。

特別支援学校の小学部、中学部又は高等部においては、知的障害者である児童若しくは生徒又は複数の種類の障害を併せ有する児童若しくは生徒を教育する場合において特に必要があるときは、各教科、道徳、外国語活動、特別活動及び自立活動の全部又は一部について、合わせて授業を行うことができる。

そして「合わせた指導」として、「日常生活の指導」「生活単元学習」「作業学習」「遊びの指導」といった、通常学校では耳にすることのない独特の「指導の形態」が生み出されることになりました。これらはあくまで「各教科・領域を合わせた指導」であるため、教科学習が困難なので各教科を「行わない」ということではなく、生活に密着した「指導の形態」の中で、国語、社会、数学等の各教科を「行う」という解釈がなされます。

そこに「各教科や領域に分けて学習内容が示されているが、実際は各教科を合わせや領域を合わせて指導することが出来るという二重構造」が生じることになります。例えば「日常生活の指導」(衣服の着脱・排尿・排便など、日常生活で繰り返し行われる活動)は知的障害児特別支援教育では恒常的に行われる「合わせた指導」です。

特別支援教育を巡る二重基準を埋めるもの

特別支援教育は、理念としては障害を持った児童も通常学校と同じ教育を受けさせるように、インクルーシブ教育など様々な法整備が進められています。しかし、その実際の教育現場では、合わせた指導など二重基準を設けられており、通常教育との本質的同一性が保たれているかは微妙な状態です。この状況の改善は困難ですが、このような中でインクルーシブ教育を推進することによって、通常学校の児童による新たな差別の温床となってしまわないか、学校・児童・政府も含めて制度設計を考えていく必要があります。

この記事をシェアする